2014年8月アーカイブ

2回若手難民研究者奨励賞 選考経過報告(講評)

文責:選考委員会

 

 若手難民研究者奨励賞は今回が第2回目の実施となりましたが、昨年度を上回る15件の応募がありました。応募は日本全国および海外からも出され、専門・研究対象なども大変多岐に富み、難民研究のすそ野の広さや可能性の大きさを改めて考えさせる内容であり、選考委員一同うれしい驚きを感じました。

 

(1)応募状況

申請者の所属は、大学院博士課程・修士課程所属の大学院生から、助手、非常勤講師、准教授の方にまで多岐にわたりました。応募者の所属の地域的分布をみますと、首都圏の大学から9名、関西の大学から4名、海外から2名(オランダ、米国)でした。また、本年は(国籍を問う申請項目がないため推測ではありますが)留学生・外国籍の方からもご応募をいただいたようでした。また、申請者の専攻も昨年同様多岐にわたり、社会学や人類学、法律学、国際公共政策、国際協力、日本語教育、さらには医学や科学・工学までと実に幅広く、それに伴い、研究対象や研究テーマも多岐にわたっていました。

 

(2)選考過程

研究・専門分野が異なる、研究者(5名)と実務者(1名)から構成される6名の選考委員が選考に当たりました。審査は、(1)審査委員による個別審査と、(2)選考委員会の開催と協議の2段階で進められました。

まず、第一段階として、各審査委員が個別に書類審査を行いました。応募書類および参考資料の内容をもとに、各審査委員が各申請者を次の5つの選考基準項目をもとに点数とコメントをつけました。選考の基準は、【1.研究の目的】【2.研究の独創性】【3.研究の計画性】【4.学問・社会への貢献度】【5.研究者の若手度】の五点で、それぞれの項目について採点をしました。

第二段階として、選考委員会を開催し、事前に回収した各選考委員の得点を合計し、総得点数の高かった上位8名について、各審査委員からのコメントを踏まえながら一人ひとり協議をし、受賞者の選定を行いました。

その結果、総得点の上位4名が、選考会においても全選考委員から総合的に高い評価を受けたため、4名を今回の受賞者に選定いたしました。

 

(3)全体講評

 今回の選考は、以下の3点を特に重要な審査項目として選考を行いました。

?第一に、研究の意義、目的、研究手法、研究の進め方のすべてがはっきりしているか、それらの間に整合性があるか、それによって来年4月末までという短期間に学術的な成果論文を完成させられるかという判断です。受賞者4名は皆様、この点が大きく評価されました。本奨励賞の選考の特色として、研究者のみならず実務者が選考委員に入っているため、たとえば研究者の視点から研究計画に高い点数がつけられた方にも、実務者の観点から、研究テーマや研究方法、調査内容の妥当性や実証可能性に厳しい意見が出されることもありました。もちろん、その逆もありました。

?第二に、難民研究に対する学術的貢献度と、実際の難民状況の解明や改善に資するかという社会的貢献度が、研究者の視点と実務者の視点の双方から議論されました。難民研究の特性にかんがみ、For refugees(難民のための、難民の視点に立った研究か?難民の権利保護に資する研究か?)という観点からも、審査が入りました。

?以上の二つの視点から検討を行い、最終的に残った上位候補者については、【若手難民研究者の育成のために研究を奨励する賞】という本事業の趣旨にかんがみ、若手性の高い方を優先させて受賞者を決定しました。若手性とは、年齢だけではなく、難民研究に携わってきた年数やキャリア等を総合的に勘案しました。

 

その結果、以下の4名を受賞者として選出しました。

 

(4)受賞者4名の講評(50音順)

 

土田千愛さんの研究は、ケニアへのソマリア難民の大量流入を事例として、「国際難民保護規範と国内での政策実施の間のかい離」の原因を研究しようというもので、テーマ設定や研究目的・意識・手法、成果論文執筆までの研究・調査実施工程がすべて明確であったことが評価されました。これまで世界中でさまざまな角度から取り組まれてきた研究テーマであるため、どれほど独創性ある研究視点からの調査と分析を実施できるかが試されます。本研究のための資料収集や聞き取りが現地調査によってどれほど達成されるのかという(特に事務者からの)懸念もありましたが、先行研究の考察と調査の事前準備をしっかり行ったうえで有用な現地調査を行い、研究成果を出せるものと判断しました。

 

 三谷純子さんの研究は、難民・移民の混合移動や難民状況の恒久的解決をめぐる近年の難民研究のホットトピックから示唆を受け、第1庇護国であるインドの亡命チベット社会から、日本や欧米といった第三国へ「留学」という形態で移動するチベット留学生(難民)をその一つの事例として扱おうというものです。これは、難民の2次移動に伴う移民化の意義を探るという、今日的に重要な視点からの研究であるといえます。その学術的意義もさることながら、日本にいる「難民」状態にありながらも「難民」としての認定申請手続きをとらない人々についても、多くの示唆を与えてくれる研究になるものと期待されます。

 

 山本香さんの研究は、トルコにおけるシリア難民の学校運営に関してすでに一定の研究成果を蓄積しながらも、それを踏まえて問題意識をさらに洗練させて「難民間のコミュニティ形成に果たす学校の役割」をテーマに取り組もうとするものです。研究の目的、意義、構想がはっきりと示されていること、これまで行ってきた自身の研究からの継続性・発展性が明確であること、難民の教育という分野において有用な知見が得られることが期待される部分などが高く評価されました。また、実務者の観点からも、これまでの「支援される対象」としての受動的な・弱い難民像ではなく、主体的に行動するアクターとしての難民像を研究で明らかにしていこうとする研究意欲に高い評価がつきました。

 

 渡貫諒さんの研究は、「無国籍者」の法学的研究において、これまでの国際法を通じたアプローチの限界点、つまり「国家が無国籍者の認定に消極的であるという問題の解決に結びつかない」という部分に注目し、そこから、国内法制からの無国籍者の保護理論の構築をめざすものです。野心的で独創性あるテーマ設定とアプローチを採用したことが高く評価され、国家論の検討などの法理論研究と判例分析に主に取り組むということで、理論研究からの学術上の貢献度の大きさに期待が集まりました。他方で、無国籍者が抱える構造的問題や法的地位を学術的に解明していくことで、国家による無国籍者の受入れの在り方を考えていきたいという研究意欲も見せており、無国籍の解決へ向けた新たな理論的枠組みを提供しうるのではという実務面からの期待も寄せられました。

 

 以上4組の受賞者の研究は、今後の日本における難民研究の発展に十分に寄与しうるもの、また実社会の難民問題への貢献度も高いものになると評価され、受賞に至りました。

 

以上